北川智久 順逆曲直旋転心身

6月1日(日) 関根秀樹先生と豪華ゲスト陣による「武術と音楽の集い」

            武術と音楽の集い

日本人の耳??? 右脳・左脳論の誤解と拍子、無拍子
                                           関根秀樹

日本人、特に理系の学問に縁薄い人たちは、ちょっと科学っぽい香りをまとった疑似科学に弱い。
逆に文化史や雑学的教養の乏しい理系バカは、オウム真理教事件の例を見るように、
精神世界やトリックに弱い。

学問が極端に細分化された現代では、STAP細胞の例を見ても周辺分野の専門家でさえ
真贋の見極めは容易ではない。

アジア人でありながら根っこを失い「黄色いアングロサクソン」に成り下がった日本人は、
日本人を世界でも独特な存在と見立てる「日本人論」に弱い。

失われた日本人独自の歩法(?)ナンバ歩きは水田稲作の作業から生まれたという説がある。
しかし、7~8世紀から水田稲作が盛んだったスペインのバレンシア近郊や北イタリアのポー川
流域の歩法を語る人はいないし、アフリカやシベリアの踊りにナンバはあっても水田はない。

1977年に出た岩波新書『日本の耳』(小倉朗著)は、日本文化と音の感受性や身体性を
史的に探り、武智鉄二のナンバ論を紹介した画期的な本だっ た。
(甲野善紀先生の処女作『表の体育 裏の体育』が1986年)

当時かなり広範囲に読まれ、影響を受けた人も多いが、後半、角田忠信(脳生理学?)の
いわゆる「右脳・左脳論」を紹介し、世間に大きな誤解を撒き散らすことにもなった。

「日本人は脳の音を感じる部位(右と左)が世界でも独特で、音感やリズム感、豊かな感受性も
日本語を使う日本人だけのもの」という説だ。

欧米人の脳は風の音、虫の音、単母音などを言葉として認識できず雑音として処理し、
日本人だけが単母音や虫の 声、風の音を言語として、声として聞くことができるのだという。

角田博士の論文(1973年)や著書『日本人の脳』(1978年、大修館)は欧米では「日本人論」の
一つとしてしか取り上げられず、まともに評価 する脳の専門家は昔も今もほとんどいない
(引用数を見れば一目瞭然)。

実験方法がそもそも彼だけしかやらない(他の専門家が見向きもしない)特殊な方法で、
評価法も彼にしかわからず、反証可能性がない。
つまり、科学の体をなしていないのだ。

右脳・左脳(正しくは大脳右半球・左半球)機能局在論の誤った観念はロジャー・スペリー
(1981年にノーベル生理学・医学賞受賞)の「分離脳」研究を歪曲、拡大解釈する人々によって広まった。

スペリーの研究対象は脳の右半球と左半球をつなぐ脳梁の切断手術を受けたてんかん患者
の脳だけで、スペリー自身が健常者の脳には適用できないと断言している。

つまり、右脳・左脳論ははじめから科学的には否定されていたのだが、生半可な学者や
不勉強なマスコミ文化人の紹介で日本の社会には大きな誤解が広まったまま。
今も「感性を高める右脳教育」だの、「豊かな耳を育てる」高級オーディオ機器メーカーなんか
の商売に都合よく利用され続けている。

角田論文から40年が経った今も、某有名国立大学では、物理の教授がまことしやかに
授業で紹介し、学生にウソを教えている始末。
これも脳にはド素人の薬学畑の人らしい。こういう人たちがいるから日本ではいつまで経っても
ウソが拡大再生産されるのだ。

武術の修行過程でも聴覚は重要だという。
リズム感が悪いと上達しにくいという話はよく聞くし、拍子とか間とかいう音楽用語も
よく耳にする。

見よう見まねでろくに理論などなかった武術の世界が、先行して理論構築がなされていた
踊りや音楽の考え方を取り入れたのだろう。

拍子や間というリズム感についても、日本人の脳は特殊だという人がいる。
日本庭園の「ししおどし」が日本独自のものと思い込んでいる文化人は多い が、
独特の「間」で打ち鳴らす水力利用の音響装置は、田畑の害獣害鳥除けから穀搗き臼
(福島県のポンカラ、岩手のバッタリなどの仲間)まで、アジアの各地に昔からある。

風力利用の音響装置としてはバリ島のスナリやピンジャカン、古代ギリシャの
エオリアンハープなども有名だ。

いわゆる西洋的な拍節感(リズム)のない馬子唄、追分節のような民謡はアジアに
いくらでもあるし、「日本にはほとんどなかった」3拍子のリズム は、南無阿弥陀仏の念仏や
南無妙法蓮華経の題目として千年近くも日本人の身体に染みついている。

子どもたちの「わらべうた」にはさまざまな変拍子も根強く残っているのだから、
幼児期のピアノ教室や幼稚園、学校での歪んだ音楽教育で耳と身体感覚を損なわなければ、
「世界でも特殊な感受性」など持ち出すまでもなく、自然の中で生きてきた人間の耳、
人間の感受性の基礎は持っているはずなのだ。

小川のせせらぎ、木の葉のさやぎ、打ち寄せる波の音、石ころのきしみ、鳥や虫の音。
こうした自然の音に対する繊細な情感も日本人だけのもの?ふざけたことを言わないで欲しい。
小川や木々や海は日本にしかないのか?鳥や虫たちは西洋にはいないとでもいうのか?
これでは何でもかんでも韓国起源にしたがる最近の韓国ナショナリズムと同レベルではないか。

音からさまざまなイメージを描く能力を持たない民族などどこにいるのだろう?
18~19世紀欧米のナチュラルヒストリーやロマン主義文学、ネイチャーライティングの
作品を一読すれば、西欧の文人、詩人たちがいかに自然を愛し、自然の音に鋭敏に聞き入り、
イメージを膨らませていたかわかり そうなものだ。

「さんさんと降り注ぐ」「しんしんと積もる」などの擬音語 や擬態語も日本人だけが
古来から持つ優れた聴覚によって生まれた日本固有の音の表現というのも的外れだ。

同じ音を重ねる反復音のオノマトペ・擬音・擬態語は、東南アジアや南アジア、ポリネシア、
メラネシア、アフリカまで、どこにでも、いくらでもある。

「日本語は世界一音の響きの美しい言語」という人もいる。
強弱のアクセントが少ない日本語はアクセントのきつい言語から見たらやわらかく感じることは
あるだろう。

ただ、欧米人や中国人がそういう感想を持つのはいいが、
日本人がそれを言うのはどうなんだろう?

ヨーロッパで「イタリア語は神に 捧げる言葉。
フランス語は恋人たちの言葉。
ドイツ語は馬の言葉」という言い方があるが、フランス語を美しいと思っている人は日本人にも多い。

東北人の私には美しい女性の京言葉はやわらかく響くし、八重山方言やフィリピンの
カンカナイ族(かつての首狩り族)の言葉を初めて耳にしたとき、その 響きのやさしさ、
美しさに息を呑んだ。

河内のおっさんのまくしたてるだみ声や甲高く耳障りな名古屋弁を「世界一美しい響き」と
いう人はいないが、あれも日本語。
濁音が多くアクセントもきつくゴツゴツした鹿児島弁や北東北の方言も日本語だ。

脳の情報処理の特殊性に由来する「日本人の耳」など存在しない。音感やリズム感は
民族性よりも胎児期~幼児期、少年期の環境や経験に大きく左右さ れる。

スギやヒノキや畳のイグサの香りを「臭い」と感じる大学生を育てたのも、米を洗剤で洗う
新妻を育てたのも日本の家庭環境なのだ。

今回は武術と音楽に通底する拍子、リズムを中心に、日本文化の中の音についてお話しします。
また、変拍子やポリリズム(複合リズム)、無拍子(自 由リズム)などについて、理論だけでなく、
映像や楽器などの体験を通して実感してもらいます。

かつて和光大で開講していた「音響人類学」の講座で 学生に人気だった特殊な音響実験も
まじえ、おそらくこれまでに体験したことのない音の世界にみなさんを招待します。
そうです。
これからしばらくの間、あなたの耳はあなたの身体を離れて、
この不思議な時間の中に入って行くのです。



皆様こんにちは。
北川智久です。

大好評「武術と音楽の集い」の二回目です。
お待たせいたしました。

今回も前半は関根秀樹先生による民族音楽の講座です。

後半は懇親会 兼 自由稽古会です。
豪華ゲストも参加されます。

武術が好きな方も、音楽が好きな方も、よく分からないけどピンと来た方も、奮ってご参加ください!

申込みフォームへ



関根秀樹先生と豪華ゲスト陣による「武術と音楽の集い」

【募集要項】

日時: 平成26年6月1日(日)
スケジュール: 
11:00~12:30 武術家のための民族音楽講座 part1
12:30~13:00 食事休憩 (各自お弁当等ご持参下さい)
13:00~14:30 武術家のための民族音楽講座 part2
14:45~17:00 懇親会 兼 自由稽古会(ゲスト有り) 
*時間割は流れによって変更する場合があります。ご了承ください。

会場: 小田急線鶴川駅付近 屋内施設
    (お申し込み、お問い合せ時にお知らせ致します)

募集人数: 30名程度(先着順)
参加費: \8000 

懇親会への差し入れ(飲み物、食べ物)大歓迎です。

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講師プロフィール
関根秀樹:和光大学や多摩美術大学、桑沢デザイン研究所などの非常勤講師も務めるフリーの研究者&ライター。
主な著書に、『新版 民族楽器をつくる』『竹でつくる楽器』(以上は創和出版)、
『縄文人になる』(山と渓谷社 ヤマケイ文庫)、『焚き火大全』(創森社、編著)、
『刃物大全』(ワールドフォトプレス)などがある。
教育出版の中学校音楽教科書にも執筆。
※NHK教育『スコラ坂本龍一 音楽の学校』にも出演


ゲスト陣からの一言です。

「武術と音楽の集い」に向けて。

この度も「武術と音楽の集い」にゲスト講師として御招きいただきますが、
アクマで一参加者として今から楽しみにしております!

前回は前回で大変面白かったのですが、今回は前回とは一味違う発見があることが予感され、
私の中からも何が湧き出てくるかが全く予想できません。

とにかく、世界中の異なる文化圏での音楽、踊り、身体の使い方、武術的な動き、を
関根秀樹先生の希少な映像コレクションから見せていただけると思うだけで興奮します!

関根秀樹先生は私の書籍の中では「首狩り族と生活した民族楽器と火起こしのプロ」と
紹介させて頂いたと思いますが、その他にも化学、古典文学、クラフトワーク、各文化圏における
刃物の研究、製鉄技法、刃物の作り方と研ぎ方、等々と一を聞けば十どころか気を付けなければ
此方の許容範囲を越えて百返ってくる先生です。

この様な先生の視点から見た世界にある各文化圏での音楽、踊り、身体の使い方、
武術・武道に関する講座ですので面白くない訳がありません!

私の方も調子が出て来て乗ってきましたら武術の即興講座をしたいかと思います。

何が起こるか本当に分かりませんが、皆様と御一緒できますこと楽しみにしております!

光岡 英稔

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僕がフィリピンで感じたのは、そもそも音楽と武術は一体だったんだと言うことでした。
それがまたここで感じられるはずです。

嘉陽与南

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「3時間の講座でみることのできる民族音楽の貴重な資料数々をもし自分で探すとなったら、
どれだけの時間がかかるのだろう。 関根先生の解説付きも魅力!」

甲野陽紀
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